カンタンに読める!金色夜叉/現代版

泥酔した貫一
その理由とは…?

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前編第4章-2-

 告白

「イヤよ私は。そんなに酔ってるんだもん。普段は酒なんか飲まないくせに、どうしてそんなに飲んだりしたの? 誰に飲まされたの? 端山さんとか、荒尾さんとか、白瀬さんとかが一緒に付いていながら、酷いわ。こんなに酔わせてしまって。十時にはきっと帰るって言うから待ってたのに、もう十一時過ぎじゃない」
「ホントに待っていてくれたのか。宮さん、サンキュ、サンキュ。ホントにそうなら、僕はこのまま死んでも恨みません。こんなに酔わされたのも、実はこれなのだ」

  貫一はお宮の手を取って、感極まったかのように握りしめた。
「僕たち二人のことは、荒尾しか知らないんだ。荒尾は他人に話を漏らす男じゃない。それがどうしてなのか、皆知っていて…
  僕はビックリだよ。四方八方から祝杯だ乾杯だと、十杯も二十杯も酒を注がれたんだ。祝杯なんて受ける言われはないって手を引っ込めていたんだが、あいつら全然聞かないんだ!」

  お宮は密かに笑みを浮かべながら、しっかり話を聞いている。
「それじゃあ、祝杯の名目を変更だ。かりそめにもあんな美人と一緒に住んで、寝食を共にしているなんてのが、既に羨ましい。それを祝おう。
  そして次に、お前も男なら更に一歩進んで、彼女を妻にできるようガンバレ。十年も一緒に居るのに、今更他の男に盗られるようなことになったら、間貫一という一個人の恥では済まないんだ。俺たち友人全体の面目にも関わって来るんだ。いや、友人どころじゃない。ひいては、学校の名折れになる。
  だから、是が非でもあの美人をお前が妻にできるように、これは俺たちが心を一つにして縁結びの神に祈った酒だから、この酒を辞退するのは非礼ってものだ。酒を飲まねば神罰があるぞ…とまあ、からかわれているのは判っていたが、言い草が面白かったから、片っぱしから祝杯をぐびぐび飲み干してやった!
  宮さんと夫婦になれなかったら、ハハハハハハッ! 学校の名折れになるんだって! 恐れ入ったものだ。そういうわけだから、なにぶん宜しくお願いいたします」

たくさんの酒

「イヤだ、もう。貫一さんたら」
「友達中に知れ渡っている以上、立派な夫婦にならなければ、僕の男が立たないんだ」
「もう決まっていることを今更…」
「そうでもないです。このごろ、小父さんや小母さんの様子を見ていたら、どうも僕は…」
「そんなこと決してないわ。邪推ってものよ」
「いや、実のところ、小父さんや小母さんの考えなんかどうだっていいんだ。宮さんのココロひとつの問題なんだ」
「私の心は決まってるわ」
「そうかな?」
「そうかなって、それじゃあんまりだわ」

  貫一は酔いに負けて身体を支えきれなくなり、お宮の膝を枕にして突っ伏してしまった。お宮は火のように赤くなった頬に、額に手を当てて、
「水をあげましょう。あれ? また寝ちゃ…貫一さん、貫一さん」

  潔い愛の告白だった。この時ばかりはお宮の胸の中にあった例の汚れた野望はすっかり消え去り、その美しい目は他に何も見えずとも良いと言わんばかりに、貫一の寝顔だけを見つめていた。富も名声も、それ以外のあらゆる欲深い気持ちもが、彼女の膝に伝わる彼のぬくもりのためにすっかり融けて消えてしまっていた。ただただ香り高い甘い夢に酔って、ふわふわしていたのだ。

  あらゆる忌まわしい妄想は、この夜のようにその瞼を閉じる。この部屋に彼ら二人以外誰もいないのと同じように、今後、貫一以外の男性の影を見ることはないであろうとお宮は感じた。また、この明々と光るライトのような、キラキラ輝く光が自分たちだけを照らしているように思えたのである。

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